福岡地方裁判所 平成12年(行ウ)21号 判決 2000年10月12日
原告
有限会社A
右代表者取締役
甲
被告
福岡税務署長 二宮武勝
右指定代理人
金田仁史
同
金子健太郎
同
腹巻哲郎
同
山崎眞信
同
松本秀一
同
渡邉博一
同
樗木朋美
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、平成九年一二月二六日付でした、原告の平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び原告の平成七年二月一日から平成八年一月三一日までの事業年度の法人税の更正処分は、いずれも無効であることを確認する。
第二事案の概要
本件は、原告が、原告の法人税の申告に対して被告がなした更正処分につき、その前提事実の一部について、被告である原処分庁と裁決庁において認定に齟齬があるゆえ、重大かつ明白な誤りがある等と主張して、その無効確認を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は輸入衣料品及び雑貨の卸売業を営んでいるものである。
2 更正処分の内容及びその理由
(一) 原告は、平成六年三月二九日、平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの事業年度(以下「平成五年事業年度」という。)の法人税につき、原告代表者の母親が代表者であり、外国ブランドの衣料品の輸入販売を業とする有限会社B商店(以下「B商店」という。)との間で、原告の要請によりB商店が取り扱う外国ブランドの衣料品について同商店が日本国内における独占販売権を獲得する場合、原告はその報酬として一ブランドあたり一〇〇〇万円(消費税込み一〇三〇万円)を支払う旨約し、「CP SHADES」「SOHO STUDIO」「SONNETI」及び「FIRE TRAP」の各ブランドの衣料品の独占販売権の獲得報酬として、B商店に支払うべき四一二〇万円(ただし一二〇万円は未払い。)を損金として計上して別表一の「確定申告」欄記載のとおり申告したところ、被告は、平成九年一二月二六日、別表一の「更正決定」欄記載のとおりの更正処分(以下「第一処分」という。)及び重加算税賦課決定処分をした。
(二) 原告は、平成八年四月一日、平成七年二月一日から平成八年一月三一日までの事業年度(以下「平成七年事業年度」という。)の法人税につき、「CHRIS JANSSENS」のブランド(以下、右(一)の四ブランドと合わせて「本件外国ブランド」という。)の衣料品の独占販売権の獲得報酬として、B商店に支払った一〇三〇万円を損金として計上して別表二の「確定申告」欄記載のとおり申告したところ、被告は、平成九年一二月二六日、別表二の「更正決定」欄記載のとおり更正処分(以下「第二処分」という。)及び重加算税賦課決定処分した。
(三) 第一及び第二処分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分の理由は、原告又はB商店が本件外国ブランドにかかる独占販売権を獲得した事実はなく、原告とB商店との間の本件外国ブランドの独占販売権獲得にかかる取引は実体のない架空の取引であり、原告がB商店に支払った本件外国ブランドにかかる独占販売権の獲得報酬(以下「本件獲得報酬」という。)は無償で供与されたものであるから、法人税法三七条六項に規定する寄付金に該当するというものであった。
3 原告の不服申立て
原告は、平成一〇年六月四日、国税不服審判所長に対し、第一及び第二処分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分について審査請求をした。
国税不服審判所長は、平成一一年八月六日、本件外国ブランドの独占販売権については、B商店が独占販売権を付与されたと認められるものがあり、また、その余のブランドについても、B商店が独占販売権を取得した事実を否定し得ないとして、重加算税賦課要件は認めるに足りないとしながらも、原告とB商店との間の本件外国ブランドの独占販売権獲得にかかる取引に経済的合理性はなく、原告がB商店に支払った本件獲得報酬は、法人税法三七条六項に規定する寄付金に該当するとして、第一及び第二処分に伴う重加算税賦課決定の一部(過少申告加算税相当額を超える部分)を取消したが、その余の処分は適法である旨判断して、別表一及び二の「裁決」欄記載のとおり裁決した。
二 争点
第一及び第二処分には重大かつ明白な誤りが存在するか。
三 原告の主張
1 更正処分の重大かつ明白な誤りについて
第一及び第二処分並びにこれに伴う重加算税賦課決定処分においては、原告とB商店の間における外国ブランドの衣料品の独占販売権の獲得に関する取引は実体のない架空の取引であり、本件獲得報酬を無償の利益の供与であるとして法人税法三七条六項に規定する寄付金と認定されたが、国税不服審判所長はその裁決において「(B商店が)本件ブランドの所有者から本件ブランドの独占販売権を付与されたと認められるものがある。」「(B商店が)独占販売権を獲得したという事実についても否定し得ないものがある。」として、過少申告加算税相当額を超える重加算税部分につきその賦課決定処分を取り消したものである。
つまり、国税不服審判所長は独占販売権にかかる原告とB商店間の取引を事実として認定しているが、このことは、原処分庁が行った更正処分の「更正の理由」に付記された理由が、上級官庁である裁決庁によって否認されたことになるのであり、これによって更正処分に付記された更正の理由は事実誤認となる。そして、この誤認した理由に基づいてなされた更正処分はその正当性を失うのであり、その誤認した更正の理由が重大かつ明白な瑕疵に該当する。
2 国税不服審判所長の判断の違法性について
国税不服審判所長の裁決中、経済的合理性を認めなかった点は著しく相当性を欠き、一見して明白な違法がある。
つまり、原告は、別表三のとおり、本件で対象となる期間中に合計五〇〇〇万円の独占販売権獲得料を支払い、合計六九八〇万九二五〇円の売上総利益を得ているところ、これを例えば投資として考えれば、四年間で投資金額全額の回収に加え、三九・六パーセントの最終的な利回りがあったことになるが、このような経済行為を経済的合理性がないとした国税不服審判所長の判断は全く客観性を欠いた誤った判断である。
四 被告の主張
被告は、外国ブランドの独占販売権に関する原告とB商店との間の取引は実体のない架空の取引であり無償の利益の供与であるから、これらの金員は法人税法三七条六項の寄付金に該当すると認定して第一及び第二処分を行ったが、国税不服審判所長の裁決は、外国ブランドの独占販売権に関する右契約は不合理であるが架空とまではいえないとしたものの、その経済的合理性は認められず、無償の利益の供与であり、法人税法三七条六項の寄付金に該当すると認定した。
したがって、原告がB商店に対して独占販売権獲得の報酬として支払う金員が無償の利益の供与であり寄付金に該当するとする点で、第一及び第二処分は裁決と処分理由及び結論を同じくするものであるから、第一及び第二処分に違法はなく、原告の主張には理由がない。
第三判断
一 原告の前記主張事実は、いずれも第一及び第二処分の重大かつ明白な瑕疵というに足りないものであるから、原告の主張は失当である。
二 よって、原告の被告に対する請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古賀寛 裁判官 山本正道 裁判官 入江克明)
別表一
平成五年事業年度の確定申告、更正決定等の経緯
<省略>
別表二
平成七年事業年度の確定申告、更正決定等の経緯
<省略>
別表三
平成五年二月一日より平成九年一月三一日までの各ブランドごとの原告の売上総利益と四年間の当該ブランドの売上総利益合計(合計は平成五年二月一日より平成九年一月三一日までの全ブランド合計)
<省略>